BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(以下、HBOC)の原因遺伝子として、これまでにBRCA1とBRCA2という2種類の遺伝子が同定されています。
- [ BRCA1 ]
- ヒト染色体17q21に存在し、全長約100kbで、合計24個のエクソンからなる。このうちエクソン1とエクソン4は、翻訳されないエクソン(non-coding exon)である。BRCA1は、1863個のアミノ酸で構成されるタンパクをコードしている。BRCA1タンパクは、細胞周期やDNA損傷の修復に重要な役割を持っていると考えられている。
- [ BRCA2 ]
- ヒト染色体13q12に存在し、全長約70kb、合計27個のエクソンからなる。このうちエクソン1は、翻訳されないエクソンである。BRCA2は、3418個のアミノ酸で構成されるタンパクをコードしている。BRCA2タンパクはBRCA1タンパクと結合して、DNA損傷に応答するパスウェイに関与しているとの報告がある。
- これら2つの遺伝子のどちらかに病的変異があると、乳がんや卵巣がんを発症するリスクが高くなることが分かっています。
BRCA1/2遺伝子の変異検出率
HBOCを疑われた方を対象にした研究によると、BRCA1/2遺伝子に変異が検出されたのは、米国での解析で20.6%、日本人を対象とした解析で26.7%でした。
| BRCA1/2遺伝子検査の変異検出率― 日本および米国の比較 |
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| 報告 | 検査対象(症例数) | 変異検出(症例数) | 変異検出率 |
| 日本 | 135 | 36 | 26.7% |
| 米国 | 2,865 | 590 | 20.6% |
| 15)および9)よりデータを一部抜粋しています。乳がんあるいは卵巣がんを発症したことのある方で、かつ乳がんあるいは卵巣がんを発症したことのある第1度近親/第2度近親者が少なくとも1人いる方が研究の対象になっています。また、米国のデータには、Ashkenazi Jewishの結果は含まれていません。 |
また、日本人を対象にした別の報告では、乳がん発症者の罹患歴、家族歴によってもBRCA1/2遺伝子の変異検出率が異なることが示唆されました。乳がんを発症した年齢が若い方が、また家系内の乳がん・卵巣がん発症者の数が多い方が、変異検出率が高くなる傾向にありました。また、乳がん発症者だけが見られる家系と乳がんも卵巣がんも見られる家系とを比較した場合、前者ではBRCA2遺伝子に変異が検出される割合が多かったのに対し、後者ではBRCA1遺伝子に変異が検出される傾向にあることが分かりました。
| BRCA1/2遺伝子の変異検出率― 乳がん発症者の罹患歴と家族歴の影響 |
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| 変異および検出率(%) | |||||||
| 家系数 | BRCA1遺伝子 | BRCA2遺伝子 | 合計 | ||||
| 乳がん・乳がん家系 | 12 | 7 | 58.3% | 0 | 0% | 7(58.3%) | |
| 乳がん家系 | 101 | 8 | 7.9% | 21 | 20.8% | 29(28.7%) | |
| 家系内乳がん発症者数 | 2人 | 76 | 4 | 5.3% | 16 | 21.1% | 20(26.4%) |
| 3人以上 | 25 | 4 | 16.0% | 5 | 20.0% | 9(36.0%) | |
| 診断された時の年齢 | 40歳未満 | 50 | 6 | 12.0% | 13 | 26.0% | 19(38.0%) |
| 40歳以上 | 51 | 2 | 3.9% | 8 | 15.7% | 10(19.6%) | |
| 片側性/両側性 | 片側 | 86 | 6 | 7.0% | 17 | 19.8% | 23(26.8%) |
| 両側 | 15 | 2 | 13.3% | 4 | 26.7% | 6(40.0%) | |
| 16)よりデータを一部抜粋しています。乳がん発症者以外に、第1度近親者に1人以上の乳がん、または卵巣がん発症者がいる家系が研究の対象になっています。 |
さらに、遺伝性を疑われた卵巣がんの研究でも、BRCA1/2遺伝子に変異が検出されました。卵巣がん発症者が少なくとも2人以上見られた家系では、BRCA1/2遺伝子の変異検出率は、約55%でした。また、その検出率は血縁者の罹患歴によって異なっており、卵巣がん発症者だけでなく乳がん発症者も見られる家系の方が、変異の検出率が高い傾向にありました。
| 日本人の卵巣がん家系を対象にした BRCA1/2遺伝子検査の変異検出率 |
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| 変異および検出率(%) | ||||||
| 家系数 | BRCA1遺伝子 | BRCA2遺伝子 | 合計 | |||
| 乳がん・卵巣がん家系 | 27 | 18 | 66.7% | 3 | 11.1% | 21(77.8%) |
| 卵巣がん家系 | 55 | 22 | 40.0% | 2 | 3.6% | 24(43.6%) |
| 合計 | 82 | 40 | 18.8% | 5 | 6.1% | 45(54.9%) |
| 17)よりデータの一部を抜粋しています。表中の「乳がん・卵巣がん家系」は、第2度近親者に2人以上の卵巣がん発症者がいて、第3度近親者以内に乳がん患者が少なくとも1人以上いる家系を表し、「卵巣がん家系」は、第2度近親者に2人以上の卵巣がん発症者がいて、第3度近親者以内に乳がん患者がいない家系を表しています。 |
このように遺伝性を強く疑われた場合であっても、乳がんや卵巣がんを発症したすべての方にBRCA1/2遺伝子変異が検出されるわけではありません。BRCA1/2遺伝子検査を行っても変異が検出されない原因としては、(1)BRCA1/2遺伝子以外の原因遺伝子がある可能性、(2)BRCA1/2遺伝子変異があるが、その検査方法では検出できない変異―遺伝子のイントロン深部(エクソンとの境界部分から離れた部分)や調節領域にある変異、一般的なダイレクトシークエンス法では検出できない変異など―の可能性が考えられています。
BRCA1/2遺伝子の変異の種類
Ashkenazi Jewishなど一部の人種・集団では、頻度の高い変異アレルが存在します。このような変異は創始者効果によるものとされ、創始者変異と呼ばれます。
一方、日本人を対象にした研究の報告によると、BRCA1/2遺伝子の複数のエクソンに様々な変異が検出されています。しかしながら、BRCA1/2遺伝子のすべてのエクソンに均等に変異が検出されているわけではありません。Ashkenazi Jewishほどではありませんが、いくつか頻度の高い変異も見つかっています。また、日本人で検出された変異の多くは一塩基置換か1~数個の塩基対が欠失する変異で、日本人以外の人種でこれまでに検出されたことのある比較的大きな欠失や挿入(数百~数千bp)の報告は日本人ではありません。
浸透率(Penetrance)
BRCA1/2遺伝子の変異の浸透率は100%ではありません。つまり、変異がある場合であっても、必ず乳がんや卵巣がんを発症するわけではありません。
BRCA1/2遺伝子に変異がある女性が乳がんになるリスクについては、いくつかの報告があります18) 19)。NCCNのガイドラインには、浸透率の概算値として、乳がん発症の生涯リスクで36~85%、卵巣がん発症の生涯リスクで16~60%という記載があります3)。リスクに幅があるのは、研究の対象となっている集団によって、結果が異なることを反映しています。
| BRCA1/2遺伝子に変異がある場合の累積リスク | ||||
| 乳がん発症累積リスク(95% CI) | ||||
| BRCA1変異あり | BRCA2変異あり | |||
| 50歳までに発症 | 70歳までに発症 | 50歳までに発症 | 70歳までに発症 | |
| 報告(1) | 49%(28%-64%) | 71%(53%-82%) | 28% (9%-44%) | 84%(43%-95%) |
| 報告(2) | 32%(2%-62%) | 47%(5%-82%) | 18%(2%-32%) | 56%(5%-80%) |
| 卵巣がん発症累積リスク(95% CI) | ||||
| BRCA1変異あり | BRCA2変異あり | |||
| 50歳までに発症 | 70歳までに発症 | 50歳までに発症 | 70歳までに発症 | |
| 報告(1) | - | - | 0.4% (0%-0.11%) | 27%(0%-47%) |
| 報告(2) | 11%(1%-74%) | 36%(4%-99%) | 3%(1%-19%) | 10%(1%-55%) |
| 報告(1)は、Ford Dらの報告18)よりデータを抜粋しています。報告(2)は、Anglian Breast Cancer Study Groupの報告19)よりデータを抜粋しています。 |
BRCA1/2遺伝子の変異とがんの特徴
BRCA1/2遺伝子に変異がある場合、一般の乳がんと比較して若い年齢で発症する傾向にあります。また、一度乳がんに罹患した後にあらたに乳がんになる例があることも知られています。さらに、卵巣がんを発症する頻度が、BRCA1/2遺伝子に変異がない場合と比較して高いと言われています。
以上のことから、欧米ではHBOCと疑われた場合には、BRCA1/2遺伝子検査を選択肢の1つとして提供し、その結果によって積極的な管理が行われるようになってきました(詳しくは、こちらをご参照ください)。また、欧米では、BRCA1/2遺伝子検査を受けない場合でも、HBOCと疑われた方は、乳腺外来での定期的な検診の他に、6ヵ月に1回の婦人科での経膣エコーによる婦人科腫瘍の検診が推奨されています。


