Current Topicsは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群に関する情報の中から新しい知見や話題となっていることを1つとりあげて紹介するページです。
第47回日本癌治療学会学術集会(10月22~24日 於横浜)の中で、「遺伝性乳がん・卵巣がんの治療戦略」と題したイブニングセミナーが開催されました(10月23日)。今回はその様子を報告いたします。
「遺伝性乳がん・卵巣がんの治療戦略」
オーガナイザー:中村清吾先生(聖路加国際病院 ブレストセンター・乳腺外科)
座長:村上茂先生(広島大学病院 乳腺外科)
演者:キャシー・松井氏(ゴールドマン・サックス証券株式会社)
山内英子先生(聖路加国際病院 乳腺外科)
武田祐子先生(慶應義塾大学 看護医療学部)
共催 第47回日本癌治療学会学術集会・株式会社ファルコバイオシステムズ
最初に、山内英子先生より乳腺外科医の立場からBRCA1/2遺伝子変異をもつ乳がんの治療方針についてご講演がありました。
BRCA1/2遺伝子変異を持っている高リスクな方に対する乳がんの予防方法としてまずは綿密な検診をうけることが推奨されますが、欧米では化学的予防や予防的乳房切除術、予防的卵巣卵管摘出術などが医療サービスとして提供されています。その医学的論拠となっている研究報告や心理社会的な調査研究についてご教示いただきました。
続いて、キャシー・松井氏はご自身の体験を振り返り、乳がんの診断、主治医からの遺伝カウンセリングの紹介、乳がんの治療に関する選択、BRCA遺伝子検査の決断、予防法に関する選択、家族との情報共有について丁寧に語られました。診断の告知をされた時には衝撃を受けたけれども、自ら多方面からの情報収集を行い、何が自分にとって大切なのか、何が問題であるのかを考えたこと。また、夫婦で話し合いを重ねて、乳房切除術とその後の卵巣摘出術を受ける選択をしたことをお話になりました。BRCA遺伝子検査の結果が、ご自身にとって「ベストの選択をすることに役立った」と力強くおっしゃっていました。
そして、武田祐子先生は、看護師として遺伝カウンセリングに携わっている立場より、遺伝性乳がん・卵巣がんの遺伝カウンセリングの内容や研究について説明なさいました。
遺伝カウンセリングでは個人によって情報の受け止め方が異なるので、ご家族で受けられる場合でもひとりひとりとお話する時間を確保するなど、配慮されている点にも言及されました。また、検査では早期発見が難しいとされる卵巣がんの対応策である予防的卵巣卵管切除術に関連する情報源として、『Ovarian Cancer Risk-Reducing Surgery : A Decision-Making Resource(邦訳:卵巣がんのリスク低減手術‐意思決定支援のための手引き‐』が紹介されました。この書籍には、ご本人にとって難しい選択である予防的卵巣卵管切除術の際に考えなくてはならないことや経験者の声が掲載されています。同じような状況におかれた他の人がどのように考え、どう決断したのかといったことは、クライエントにとって知りたい内容であることはもちろん、遺伝カウンセリングを提供する医療者にとっても、クライエントの背景を理解することに役立つとのお話でした。
最後に、座長の村上茂先生から、遺伝性乳がんの治療に関して予防的な効果を示したエビデンスはあるものの、日本においては、遺伝カウンセリング体制や個人にとっての「知りたい権利/知りたくない権利」の問題、社会的な整備が十分でないことなどをご提示いただきました。しかしながら、『患者さんのための乳がん診療ガイドライン2009年版』をはじめ少しずつ遺伝性乳がん・卵巣がんについて情報が発信され始めており、社会的にも遺伝性乳がん・卵巣がんの診療体制の構築が求められているとお話になりました。
その後、セミナー参加者とパネリスト・座長で活発な質疑応答やディスカッションが行われ、盛況のうちに終わりました。
『Ovarian Cancer Risk-Reducing Surgery : A Decision-Making Resource(邦訳:卵巣がんのリスク低減手術‐意思決定支援のための手引き‐』に関しては、Current topics(2009.4.20)でも紹介しています。詳しくはこちら。

