多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)遺伝子診断 RET遺伝子検査
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)はMEN2A、MEN2Bおよび家族性甲状腺髄様癌(familialmedullary thyroid carcinoma; FMTC)の3病型に分類されます。いずれの病型もほぼ100%の確率で甲状腺に髄様癌を生じます。MEN2AとMEN2Bでは褐色細胞腫を高率に発症し、MEN2Aでは副甲状腺の過形成あるいは腺腫もみられます。MEN2Bでみられる他の所見としては口唇や舌の粘膜神経腫、厚い口唇を伴う特徴的な顔貌、消化管の神経節腫、マルファン様体形などがあります。甲状腺髄様癌はMEN2Bでは小児期、MEN2Aでは若年成人期、FMTCでは中年期に発生します。
RET遺伝子検査は臨床的に利用可能で、主に発症前保因者を早期に同定し、早期治療介入によって罹病率や死亡率を下げるために有用な検査です。
RET遺伝子(10q11.2)は本症に関連していることが知られている唯一の遺伝子です
MEN2A
約95%のMEN2A家系ではRET遺伝子に変異を有しています。コドン634のシステイン残基の変異が約85%の家系に認められ、残りの家系の大部分ではエクソン10、11に存在する他のシステイン残基であるコドン609、611、618、620に変異が認めらます。一部の家系ではエクソン13-15に変異が報告されています。
FMTC
約88%のFMTC家系でRET遺伝子変異が認められています。これらの変異はコドン609、611、618、620、634のシステイン残基のいずれかに生じ、618、620、634の変異はそれぞれ全体の25%から35%を占めています。その他の変異(コドン533、630、631、768、790、791、804、891)も少数の家系で同定されています。
MEN2B(40%が孤発例)
約95%のMEN2B患者ではRET遺伝子のチロシンキナーゼドメインに位置するコドン918(エクソン16)に変異(M918T)を認められます。M918T変異を認めない患者の一部ではエクソン15のコドン883やエクソン16のコドン922に変異が同定されています。
鑑別診断
甲状腺髄様癌は、毎年日本で新たに診断される甲状腺癌の1~2%を占めます。
そのうち約40%はMEN2/FMTCによるものです。家族歴のない散発性甲状腺髄様癌と考えられた症例のRET遺伝子を解析した研究では約10%の患者でこの遺伝子に変異が検出されたと報告されています。
家族歴の有無や診断時の年齢にかかわらず、甲状腺髄様癌の散発性か遺伝性かの鑑別にRET遺伝子の検査が有用です。
MEN2で用いられる遺伝子検査

MEN2AとFMTCを臨床的に区別することは難しく、いずれに対してもexon10-15(除12)の検索が必要です。
遺伝子検査の臨床的意義と小児への遺伝子検査の適応
MEN2は遺伝子検査を早く行うことが明らかに有益である、逆に言えば遺伝子検査が遅れることで明らかに治療上の不利益が生じる疾患です。
欧米の最近のガイドラインではMEN2の親から生まれた子どもに対しては出生後早期に遺伝子検査を行い、MEN2Bでは生後6ヵ月以内に、MEN2Aでは5歳までに予防的手術を行うことを推奨しています。しかし、現在日本でこのような早期に予防的手術を行っている医療機関は少ないと思われます。実際には、保因者とわかったお子さんに対してもすぐに予防的手術はせず、カルシトニンの測定や甲状腺の超音波検査、さらには吸引細胞診や負荷試験を行って経過を見ていき、陽性所見が現れた時点で手術を行っても遅くない、と考える専門医が多いようです。これは日本人の甲状腺髄様癌が欧米人のそれに比べて臨床的におだやかであると思われること、予防的手術は年齢が高くなって身体がある程度大きくなってからの方がより安全に行えることなどが大きな理由と考えられますが、遺伝あるいは遺伝性の病気に対する理解や考え方が国や地域によって、決して同じではないことも無視できない要因と思われます。
遺伝子検査は遺伝カウンセリングの過程で、重要かつより確実な情報を提供できる選択肢です。
本解析の概要
| 項目名 | 解析内容 | 検体量 | 保存条件 | 所要日数 | 検査方法 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| MEN2A/FMTC | RET遺伝子の エクソン10,11,13,14,15領域の塩基配列解析 | 全血 7mL | 冷蔵 | 2週間 | ダイレクト・ シークエンシング法 | 未発症者の全塩基配列解析は、診断意義が低いとされています。 発症前診断には、事前に、既発症血縁者の遺伝子変異の確認を行ってください。 |
| MEN2B | RET遺伝子の エクソン15(A883F), エクソン16(M918T), エクソン16(S922Y) 変異解析 | |||||
| クイック MEN2A/FMTC | RET遺伝子の エクソン10,11,13,14,15領域の塩基配列解析 | 5営業日※ | ||||
| クイック MEN2B | RET遺伝子の エクソン15(A883F), エクソン16(M918T), エクソン16(S922Y) 変異解析 | |||||
| MEN2 シングルサイト | RET遺伝子の特定1ヵ所塩基配列解析 | 全血 3mL | 2週間 | 既発症血縁者の 遺伝子解析情報を ご提供ください。 |
※休日(日曜日、祝祭日等)を除く5営業日となります。
検査依頼前のお願いと、依頼時の確認事項について
ファルコバイオシステムズは、RET遺伝子検査を臨床検査として受託するにあたり、家族性腫瘍における遺伝子診断は、現段階では、その特性から通常の臨床検査とは異なる扱いをしています。
遺伝学的検査の倫理的、社会的問題を考慮し、検査の依頼に際して、いくつかの条件を医療機関にお願いしております。(別紙、受託に関するご案内を参照ください。
検査の実施にあたっては、社団法人 日本衛生検査所協会「ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針」、厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」 及び関係学会による「遺伝学的検査に関するガイドライン」を遵守することを基本としています。