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リンチ症候群(HNPCC)の遺伝子診断 MLH1/MSH2/MSH6/PMS2遺伝子検査のご案内

リンチ症候群(HNPCC)

リンチ症候群(HNPCC)
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サマリー

がんは環境要因と遺伝的要因が掛け合わさって生じると言われています。その中で、遺伝的要因が強く関与して発症する遺伝性腫瘍は、がん全体の中で5~10%と言われています。
主に大腸がんや子宮内膜がんを発症する遺伝性腫瘍の1つにリンチ症候群(HNPCC)があります。リンチ症候群(HNPCC)は、比較的若い年齢で大腸がんや子宮内膜がんを発症するリスクが非常に高く、その他にも卵巣がん、胃がん、小腸がん、肝胆道がん、上部尿路がん、脳腫瘍、皮膚がんの発症リスクが一般集団よりも高いことが分かっています。よって、リンチ症候群(HNPCC)が疑われる家系の方を正しく把握し、そのリスクに応じた予防対策を取ることが大切だと考えられます。

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Nomenclature(疾患の命名)

リンチ症候群(HNPCC)の研究の歴史的背景により、疾患名が混在しています。 HNPCCはHereditary non-polyposis colorectal cancer(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)の略称です。若年での大腸がん発症や大腸がん以外のがんの発症リスクが高いことを主徴として定義され、同じく遺伝性大腸がんの1つで腺腫性ポリープの多発を主徴とする家族性大腸腺腫症(FAP)と区別するために、「HNPCC(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)」と命名されました。また、疾患概念を確立したDr. Henry Lynchの名にちなんだ「リンチ症候群(Lynch Syndrome)」など、他にも様々な疾患名で呼ばれてきました。最近では、大腸がん以外のがん発症リスクも高いこと、原因遺伝子が同定されFAPと名称で区別する必要がもはやなくなったことなどを理由に、疾患名は「HNPCC(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)」よりも「リンチ症候群」の方が適切であると意見が一致しつつあります1)。ただし、報告や研究者によっては、原因遺伝子であるMMR遺伝子に病的変異が検出された症例のみをリンチ症候群としている場合や、MMR遺伝子に病的変異を有する、あるいはその可能性が高い症例をリンチ症候群としている場合があります。
本情報サイトの以降の記述では、HNPCCとリンチ症候群の疾患概念を1つにまとめて「リンチ症候群(HNPCC)」という表記で統一します。

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リンチ症候群(HNPCC)の臨床的特徴

リンチ症候群(HNPCC)患者では、大腸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、肝胆道がん、上部尿路がん、脳腫瘍、皮膚がんの発症リスクが高まると考えられています。詳しくはこちらをご覧ください。特に発症頻度の高い大腸がんと子宮内膜がんに関しては、以下のような臨床的特徴が報告されています。

1)大腸がん
リンチ症候群(HNPCC)の大腸がんでは、散発性の大腸がんと比べて、臨床病理的にいくつかの特徴があります。2) 3) 4) 5)
・発症年齢が若い
・大腸がんが同時・異時に多発する場合がある
・大腸がんが右側結腸(盲腸・上行結腸・横行結腸)に発生する頻度が高い
・粘液がん、低分化腺がんの頻度が高い
・大腸以外に、子宮内膜がん、卵巣がん、泌尿器系がん、胃がん等の合併がある
・予後は比較的良好である
・大腸がんのMSI検査が陽性のことが多い
2)子宮内膜がん
リンチ症候群(HNPCC)の女性では、子宮内膜がんの発症リスクが大腸がんと同程度に高く、その生涯発症リスクは60~70%であると報告されています。そして特徴としては、発症年齢が若いこと(50歳未満)、他臓器がんとの合併(特に大腸がんとの合併)が報告されています6)

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リンチ症候群(HNPCC)の診断

リンチ症候群(HNPCC)の確定診断には、臨床的な診断基準によるものと、原因遺伝子の検査があります。

1)アムステルダム基準
臨床的な診断基準として、1990年に国際的なリンチ症候群(HNPCC)の研究グループであるICG-HNPCC(the International Collaborative Group on Hereditary Non-polyposis Colorectal Cancer)が研究目的として「アムステルダム基準7)」を発表しました。その後、大腸がんだけではなくその他の関連がんを含めた評価基準「アムステルダム基準Ⅱ8)」を発表し(1998年)、現在、臨床的な診断基準として用いられています。


【アムステルダム基準Ⅱ】
血縁者に3名以上のHNPCC関連がん(大腸がん、子宮内膜がん、小腸がん、腎盂・尿管がん)に罹患しており、かつ、以下のすべての条件に合致していること。
  • 1) 罹患者の1名は他の2名の第1度近親者であること
  • 2) 少なくとも継続する2世代にわたり罹患者がいること
  • 3) 罹患者の1名は50歳未満で診断されていること
  • 4) 家族性大腸腺腫症が除外されていること
  • 5) がんが、病理検査により確認されていること
  • また、日本人ではリンチ症候群(HNPCC)の家系で胃がんの発症が多く見られており、リンチ症候群(HNPCC)関連腫瘍として胃がんも考慮すべきといわれています。
    日本では、日本大腸癌研究会が発表した(1991年)診断基準9)もあります。

    【日本大腸癌研究会による臨床基準】
    A群:第1度近親者(親、子、兄弟姉妹)に発端者を含む、3例以上の大腸がん患者を認める大腸がん
    B群:第1度近親者(親、子、兄弟姉妹)に発端者を含む、2例以上の大腸がん患者を認め、なおかついずれかの大腸がんが次のa~dのいずれかの条件を満たす大腸がん
  • a) 50歳以下の若年大腸がん
  • b) 右側結腸がん(脾彎曲部より近位)
  • c) 同時性あるいは異時性の大腸がん
  • d) 同時性あるいは異時性の他臓器重複がん
  • 2)原因遺伝子の検査
    アムステルダム基準が発表された後に、リンチ症候群(HNPCC)の原因遺伝子としてMMR遺伝子が発見されました。アムステルダム基準を満たさなくても、MMR遺伝子に病的変異を持っている場合には、リンチ症候群と確定診断できます。MMR遺伝子の検査については、こちらをご覧ください。
    population-basedの研究や無選別の大腸がん全体の研究において、MMR遺伝子変異が検出された症例では、アムステルダム基準に合致している割合は41%でした10)。つまりアムステルダム基準でリンチ症候群(HNPCC)をスクリーニングしようとすると、約60%の人を見逃すことになります。そこで、ベセスダ基準とMSI検査を用いてのふるい分けが提唱されています。
    MMR遺伝子検査は、リンチ症候群(HNPCC)の診断を確定するための1つの手段ですが、アムステルダム基準を満たす家系においても必ずしもこれらの遺伝子のいずれにも変異が検出されない例があることや、遺伝子検査の実施を望まない例もあるため、臨床の現場では、家族歴や臨床的な特徴、病理組織学的な特徴などの側面からもリンチ症候群(HNPCC)の可能性を評価します。

    3)ベセスダ基準とMSI検査
    リンチ症候群(HNPCC)の大腸がんの病変組織において高い確率でMSI(マイクロサテライト不安定性)という特徴が見られることが分かっています。そこで、リンチ症候群(HNPCC)の補助診断としてMSI検査を適用する対象基準(ベセスダ基準:1998年、改訂ベセスダ基準:2004年11))が、NCI(National Cancer Institute)より提唱されました。米国では、ベセスダ基準を満たす症例を対象としてMSI検査やMMR遺伝子がコードしているタンパクの発現を調べるIHC検査を実施し、リンチ症候群(HNPCC)の可能性の高い症例をふるい分けたうえで、MMR遺伝子検査が行われています6) 12)


    【改訂ベセスダ基準】
    以下が1つでも当てはまる症例の腫瘍は、MSI検査をするべきである
  • 50歳未満で診断された大腸がん
  • 年齢に関わらず、大腸がんおよびHNPCC関連腫瘍*の同時性・異時性重複がんがある症例
  • 60歳未満で診断され、MSI-Hの病理所見**を呈する大腸がん
  • 第1度近親者が1人以上50歳未満でHNPCC関連腫瘍と診断されている患者の大腸がん
  • 年齢に関わらず、第2度近親以内の血縁者が2人以上HNPCC関連腫瘍と診断されている患者の大腸がん

  • *HNPCC関連腫瘍:直腸結腸がん、子宮内膜がん、胃がん、卵巣がん、膵臓がん、尿管・腎盂がん、胆道がん、脳腫瘍(通常はTurcot症候群で見られる膠芽腫)、Muir-Torre症候群における皮脂腺腫や角化棘細胞腫、小腸がん
    **浸潤リンパ球、クローン様リンパ球反応、粘液性/印環細胞がん様分化、あるいは髄様増殖

    4)鑑別診断
    臨床所見や家族歴、その他の検査結果を総合して判断しても、他の遺伝性腫瘍との鑑別が困難である場合もあります。鑑別を要する遺伝性大腸がんとして、軽症型家族性大腸腺腫症(Attenuated FAP)、若年性ポリポーシス症候群(JPS)、Peutz-Jeghers症候群、Cowden症候群などがあります。

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    リンチ症候群(HNPCC)の遺伝形式

    リンチ症候群(HNPCC)は、常染色体優性遺伝形式をとります。よって、原因遺伝子に病的変異を有していることが分かった場合、その人のこどもには性別に関わらず1/2(50%)の確率で同じ病的変異が受け継がれます。
    ただし、MMR遺伝子に病的変異があると必ずがんにかかるというわけではなく、病的変異を持っている方でもその10~30%は一生がんにかからない(不完全浸透)と報告されています。よって、親や兄弟姉妹、その他の血縁者での変異の保有を検討する場合は、不完全浸透による未発症の状態も考慮することが必要です。

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    リンチ症候群(HNPCC)の医学的管理

    リンチ症候群(HNPCC)と診断された方とその方の血縁者においては、関連腫瘍の発症リスクが高いことを考慮して適切な予防方法を提供することが大切です。ICG-HNPCCのガイドライン12)では、リンチ症候群(HNPCC)と診断された方やその血縁者でリスクの高い方に対して、これまでの研究報告を踏まえ、表のようなサーベイランスの方法が推奨されています。大腸がんに関しては、リンチ症候群(HNPCC)家系を対象とした前向き研究で、サーベイランスによって、浸潤性の大腸がんの発症率が有意に低下することが分かっています13) 14)。今後研究がさらに積み重なることにより、科学的根拠に基づく効果の高いサーベイランスの方法が開発されることが期待されています。

    推奨されているサーベイランスの方法12)
    部位 内容 開始時期 頻度
    大腸がん 大腸内視鏡 20~25歳
    または家系の中で最も若い
    発症者の発症年齢の10歳前
    1回/1~2年
    子宮内膜がん 細胞診 30~35歳 1回/1年
    子宮内膜がん・卵巣がん 経膣超音波検査 30~35歳 1回/1年
    尿路系がん 細胞診 25~35歳 1回/1~2年

    海外では、リンチ症候群(HNPCC)家系で大腸がんと診断された場合には、2つ目のがん発症リスクを抑えるために、腫瘍を摘出する際により広範囲に大腸を切除したり、子宮内膜がんの予防として子宮を摘出することが推奨されています。また、米国では、出産を終えた女性に対して、子宮や卵巣の予防的摘出が選択肢として提示される場合があります。

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