遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の
遺伝学的検査
BRCA1/2遺伝子検査

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)とは

遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)は、BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列における病的バリアントを原因とする遺伝性疾患です。HBOCでは乳がん、卵巣がん、膵がん、前立腺がんの生涯発症リスクが高いことが知られています2)。散発性の乳がんに比べBRCA1遺伝子の病的バリアントを持つ乳がんでは、トリプルネガティブ乳がんの割合が多く、国内においてBRCA1病的バリアント保持者の乳癌の83%がトリプルネガティブ乳癌であると報告されています3)
また、日本人のがん患者を対象にした調査では、BRCA1/2遺伝子病的バリアント保持者においては上記4つのがんに加え、胆道がん、食道がん、胃がんの発症リスクも高いことが示唆されています4)。そのため、生涯にわたり複数のがんに対してサーベイランスを実施していくことが重要だと考えられています。

HBOCの他にも、乳がんを発症するリスクが比較的高い遺伝性腫瘍としてリー・フラウメニ症候群(LFS)や、Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群(CS/PHTS)が知られています。

HBOCに臨床診断基準はありませんが、米国のNCCNガイドラインでは、以下のような特徴を持つ乳がん患者さんに対して、BRCA1/2遺伝子の遺伝学的検査が臨床的に適応となるとされています(表1)。

表1 BRCA1/2遺伝子の遺伝学的検査の実施が推奨される方の特徴1)

臨床的特徴の基準:既発症の乳がん患者に

  • 血縁者にBRCA1/2遺伝子の既知の病的バリアント保持が確認されている
  • 50歳以下で診断された乳がん
  • トリプルネガティブ乳がん
  • 両側または片側に2つ以上の原発性乳がん(同時性または異時性)
  • 男性乳がん
  • 第3度近親以内の血縁者に50歳以下の乳がんもしくは、男性乳がん、卵巣がん、膵がん、転移性前立腺がん患者が1人以上いる
  • 乳がんおよび/または前立腺がん(グレードは問わない)の診断が、乳がん患者本人を含めて同じ家系内で3件以上ある
  • 転移性乳がんに対するPARP阻害薬を用いた全身治療が検討されている
  • HER2陰性の手術不能または転移再発乳がんでオラパリブの投与が検討されている
  • がんゲノムプロファイリング検査の結果、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアント保持の可能性が指摘されている

家族歴の基準:未発症、または発症しているが上記の基準を満たさない場合

  • 上記のいずれかの基準を満たす第一度または第二度の血縁者をもつ個人(ただし、血縁者が全身療法の意思決定のためにのみ基準を満たす未発症の個人は除く)
  • 事前確率モデル(例:Tyrer-Cuzick、BRCAPRO、CanRisk)に基づいて、BRCA1/2の病的/病的意義不明な変異(P/LP)をもつ確率が5%以上の個人
  • ※第3度近親以内の血縁者:父母、兄弟姉妹、異母・異父の兄弟姉妹、子ども、甥・姪、おじ・おば、祖父母、大おじ・大おば、いとこ、孫

一方、卵巣がん患者の14.7%はBRCA1/2遺伝子の病的バリアントを保持するHBOCであるとの報告があります5)。そのため、すべての卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がん患者には家族歴に関係なくBRCA遺伝学的検査の受検が推奨されています6),7)
NCCNガイドラインではより詳細な、乳がんの発症リスクが高い遺伝子を対象とした遺伝学的検査を受ける基準があります1)。しかし、これらの基準に当てはまらない乳がん患者においても、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントの検出が報告されています8),9)。そのため、検査基準に合致する/しないだけではなく、患者の臨床情報や家族歴などから遺伝性腫瘍の可能性について十分検討する必要があります。

遺伝学的検査

BRCA1/2遺伝子に病的バリアントが検出された場合、HBOCと確定診断されます。
BRCA1/2遺伝子で検出される病的バリアントの大部分は塩基配列解析(DNAシークエンシング)による検出が可能な塩基置換や数塩基程度の欠失/重複です。しかし、わが国では欠失/重複解析(MLPA法)でしか検出できないエクソン単位の大欠失も5%以下の頻度で存在すると報告されています。そのため、BRCA1/2遺伝子の解析にはDNAシークエンシングだけではなくMLPA法も併せて行う必要があります10)
遺伝性乳がんの原因としてBRCA1/2遺伝子の他に、CHEK2遺伝子、ATM遺伝子、PALB2遺伝子、TP53遺伝子、PTEN遺伝子などが知られていますが、最も頻度が高いのがBRCA1/2遺伝子です。日本人の乳がん患者を対象に行った調査では、すべての年代において病的バリアントが検出された症例の3分の2をBRCA1/2遺伝子が占めていたと報告されています11)

遺伝学的検査を行う意義

BRCA1/2遺伝子の病的バリアントの検出によりHBOCと確定診断することは、HBOCの臨床的特徴に応じた様々な医学的管理を行う根拠となります。例えばNCCNガイドラインでは、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを持っている方に対して、次のような医学的管理を行うことを推奨しています(表2)。

表2 HBOCの医学的管理(一部抜粋)1)

がん 医学的管理の内容
乳がん
  • 乳房検診を25歳で開始(6〜12か月毎)
  • 乳房スクリーニング
    25〜29歳:乳房スクリーニング(MRIまたはマンモグラフィー)/年1回
    30〜75歳:乳房スクリーニング(MRIとマンモグラフィー)/年1回
    ※両側乳房切除を行っていない乳がん患者は上記を継続して行うべき
  • リスク低減乳房切除術(RRM:Risk Reducing Mastectomy)について話し合う
  • 男性乳がん:35歳から乳房検診を開始(自己検診も含む)/年1回
卵巣がん
  • リスク低減卵管卵巣切除術(RRSO:Risk Reducing Salpingo-Oophorectomy)の実施を推奨(35〜40歳頃)
    BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者では40〜45歳頃の実施も妥当
膵がん
  • 50歳からスクリーニングを開始することを考慮
    ※父方または母方いずれか一方の第2度近親以内に膵がんの既往歴を持つ病的バリアント保持者がいる場合
前立腺がん
  • 40歳からスクリーニングを開始
    BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者:実施を推奨
    BRCA1遺伝子の病的バリアント保持者:実施を考慮

BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを持つ乳がん患者では、乳がん手術の術式として乳房温存療法を選択した場合、散発性乳がんと比べ温存乳房内の再発率が高いことが知られています12)-25)。そのため、乳房を全摘するのか温存するのか、HBOCの乳がんの特徴を考慮したうえで慎重に判断する必要があります。

わが国においてもHBOCと診断された乳がん・卵巣がん患者に対し、手術やPARP阻害剤投与による治療だけではなく、がん発症予防のためのCRRM、RRSO、温存/健側乳房の造影MRIサーベイランスが2020年4月に保険収載されました。
そのため、HBOCであるかどうかの情報は患者の治療方針やサーベイランスの内容を決定するうえでも非常に重要な情報となります。

また、発端者に病的バリアントが検出された場合、血縁者に対して発端者で見つかった病的バリアントの有無のみを確認するシングルサイト検査を行うことができます。発端者と同じ病的バリアントが検出された場合、がん発症予防のためのがんサーベイランスの実施が推奨されます(表2)。がん未発症の時期からこのようなサーベイランスを実施することで早期診断や早期治療が可能になります。また、病的バリアントを持たない血縁者では、必ずしも必要のない過剰なサーベイランスの実施を回避することができます。また、がん未発症の血縁者についてもリスク低減両側乳房切除術(BRRM:Bilateral Risk Reducing Mastectomy)やRRSOを実施することが推奨されています。

遺伝形式と浸透率

HBOCは常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとります。BRCA1/2遺伝子に病的バリアントが検出された場合、その方の子どもには性別にかかわらずそれぞれ1/2(50%)の確率で同じ病的バリアントが受け継がれます。
HBOCの浸透率は高いことが知られています。HBOCで発症頻度の高い4つのがんの発症リスクは次のように報告されています(表3)。

表3 BRCA1/2遺伝子に病的バリアントがある場合のがん発症リスク1)

遺伝子 乳がん 卵巣がん 膵がん 前立腺がん
BRCA1 >60%(女性)
0.2〜1.2%(男性)
39〜58% ≦5% 7〜26%
BRCA2 >60%(女性)
1.8〜7.1%(男性)
13〜29% 5〜10% 19〜61%
  • ※男性乳がんは70歳までのリスクを記載

受託要件

当社にて遺伝学的検査を受託するにあたっては、【受託実施指針】に伴い、「体制確認書」の提出をお願いしています。
ご依頼いただく際は、お問い合わせください。

検査項目

注:当社のBRCA1/2遺伝子検査は自費検査(保険適用外)です。

検査項目 検体量
(末梢血)
保存条件 検査日数 検査方法
全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
HBOC
スクリーニング
BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の全翻訳領域のそれぞれのエクソン22個(エクソン2,3,5〜24)、26個(エクソン2〜27)と隣接するイントロン領域について塩基配列を解析します。あわせてエクソンレベルの比較的大きな欠失や重複(MLPA法)も同時に解析します。 全血2ml 冷蔵 21~22日 NGS法およびMLPA法
シングルサイト シングルサイトにつきましては、こちらをご確認ください
【ご注意ください】
  1. 1)造血器腫瘍を発生したことのある被検者は、検査が出来ない場合があります。別途ご相談下さい。
  2. 2)EDTA 2Naによる採血を推奨しています。
  3. 3)所要日数は、検体を受領した翌日を起算日として、祝日を除いた日数です。
  4. 4)遺伝子の5’UTRや3’UTRおよびイントロンの深部(エクソンとの境界部から離れた領域)は解析の対象外です。

参考文献

  1. 1)NCCN Guidelines® Genetic/Familial High-Risk Assessment:Breast,Ovarian,and Pancreatic, and Prostate Version 1.2026
    https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/genetics_bopp.pdf
  2. 2)GeneReviews® [Internet].BRCA1-and BRCA2-Associated Hereditary Breast and Ovarian Cancer
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1247/
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